「で?何だよ話したいことって」
いくら昼よりは涼しいっつってもこんだけ狭い部屋に集められっと暑苦しいんだけどよ。
伊佐敷が文句を言うのも無理はなく、3人で使っても手狭な部屋にガタイのいい高校球児が8人。その筋肉からの発熱量は、窓からの涼風を相殺してなお有り余るものがある。
要するに、大変暑苦しいのだ。早く人口密度を下げさせろと、どの顔にも書いてある。
「実は…、その、沢村と」
「付き合ってるんだ」
耳が痛いほどの沈黙が流れる。
「オイ、クリス」
分かってはいたが、こういう時一番初めに口を開くのは、やっぱり純だった。
「何でもっと早く言わねぇんだよ?」
思わず、その顔を凝視してしまったのは、その方面に文句を言われるとは思っていなかったせいだ。
「早く言えよな。ずっと黙ってる気だったのかよ」
強面のわりに淋しがり屋(と言ったらキャンキャンと吠えられるだろうけれど)の彼にとっては、打ち明けられた内容よりも今まで黙っていられたことの方が重要な問題であるらしい。
「っていうかあれでバレてないと思ってるほうがすごいよね」
常と変わりない笑顔を浮かべている亮介にとっては、何を今更、といった感じなのだろう。「いや、しかしお前を基準に考えるのは・・・何と言うか、人間に失礼だ」と言おうとしたところ、伏兵は思わぬところから現れた。
「お前のアレは親バカじゃなかったのか」
日常生活に必要な何かまで野球に注ぎ込んでしまったとも言われている主将にまで、とは。
「お前でも親バカという認識はしてたんだな」
「純、どういう意味だ」
「そのまんまだよ」
主将と中堅手のいい争いを止めるような人間は、ここにはいない。全員が全員、「そんな無意味なこと誰がするか」と思っているからだ。
「何を今更言い出すのかと思えば・・・」
寡黙な捕手は、呆れ顔で溜め息をつく。
「ブルペン組が知らないわけないだろう」
苦々しい顔をしているのに、頭を二塁手に撫でながらではせっかくの苦々しさに重みが無い。いい加減慣れてきているあたり、生真面目なエースもだいぶ毒されてしまったらしい。
「何の文句もないが、もっと早く言ってくれると気が楽だったんだがな」
沢村と同室の彼だ、知らない振りをしながら気遣うのは大変だったのかもしれない。
「内野組もね、まぁなんとなくは分かってたんだよ」
正統派二枚目の甘いマスクに、少し困ったような笑みが浮かぶ。レギュラーではないけれど遊撃を守る彼のそれは、一部では青道最後の良心とも言われている。この言葉を聞いた二塁手は「最後ってどういう意味かな?」とにこやかかつ同時に恐ろしいものを感じさせる笑顔を浮かべるので、だからそう言われるんだと苦笑したのはいつのことだったか。
「なんとなくじゃなくて、あからさまでしょ」
やはり、さしもの良心も青道陰の支配者をとめることは出来ないらしい。まぁ、止めることができていたならばこんな恐怖政治は敷かれてないはずだ。
「亮介!」
「この際はっきり言っておいたほうがいいんじゃない?」
「改めてうちの沢村ちゃんを頼んだぞ。たまに俺のプリンを無断で食べるけどな、あれでいい子なんだ」
全員が知っているとなればフォローの必要もないと、晴れ晴れとした表情で言った内容は、その、なんというか。
「何だ、その結婚式前夜の父親みたいなセリフ」
まさに、それだった。
「そんな風に思うの、純くらいなもんだよ?」
「乙女だね、純」
「んだと!?」
さっきの良心的発言はどこに行ったのか。これまた隠れファンの多い、からかうような笑みを浮かべた遊撃の男は、隣に座る二塁手同様、乙女趣味のセンターをからかう機会を逃さない。
所詮「青道最後の良心」も、2年半にもなる付き合いの前では意味をなさないということだ。
「良心」曰く、「せっかくみんながそう言ってくれるから否定してないけどね、肯定もしてないよ」らしいので、結局は同じ穴のなんとやらなのかもしれない。なんにせよ、これだからニ遊間は学年を問わずイイ性格だと言われるのだ。
類は友を呼んだのか、朱に交わって赤くなったのか。 どちらにせよこの場合の「類」も「朱」もどちらも小柄な二塁手であることは間違いなく、この場では満場一致で可決されるだろう。もっとも、陰の独裁者と呼ばれる彼に平和的民主主義が通用するかどうかは怪しいところだが。
「騒ぐな、本当だろう」
たしなめたのは、普段は口数の少ない捕手。あまり口を開かない分、その言葉は一撃必殺タイプが多い。一言一言じわじわといたぶる二塁手とは正反対で、先日誰かが「俺も宮ちゃんを見習ってみようかな」と呟いていたのを聞いてしまったときは、真っ先に彼のもとへと詰め寄った人間は口々に、「アイツの攻撃力をこれ以上上げるな」と言い残していったという。
「…何なら、今増子に言ったらどうだ。「息子さんを俺に下さい」と」
真面目な丹波にとっては相当の譲歩。というよりももう、投げやり、といった感じだ。
「そんな投げやりに言わなくても…」
「それこそ今更でしょ?どうせ初夜だって終わってるんだろうし?」
「「「「「「「「なっ…!!」」」」」」」
「おーい、キャプテンいいのか、部員同士の不純同性交遊は」
少女マンガを愛読する彼だ、乙女思考に関しては青道で右に出る者はいない。その座をかけて争いたいと思っている者もいないが。そしてその乙女思考回路から考えるに、高校生でそういう関係というのは許せないらしい。純の乙女回路は昨今の少女マンガよりもよっぽど乙女らしいとは、年の近い妹の愛著を読んだ遊撃の弁だ。
「む。・・・不純、なのか?」
主将の問いに、
ある者は苦々しい顔で、
ある者は悟りを開いたように、
心底この状況を楽しんでいるような笑みで、
若干父親の貫禄を滲ませながら、
人好きのする笑みを浮かべながら、
無理矢理に作ったしかめ面で、
「「「「「「近年まれに見る純愛バカップルだな(ね)」」」」」」
君の幸せを、願わない俺達であるはずがないでしょう?
END .
先日、(おぉ・・・もう1ヵ月半前か…)クリ沢チャットにお邪魔した時、調子に乗って書きますといったカミングアウトもの。
・・・なんか、ずれてる気がしないでもない。
タイトルは某エロゲから。「絶対」しかあってないけどねっ!
当初のものからやっぱり変えました。・・・が、あっちでも良かった気が。名残はページタイトルに(笑)
楠木先輩超捏造。全国の楠木先輩ファンのみなさんすみません。
そして全国の坂井先輩ファンの皆さんもっとすみません。で、出番が…!
こんなクリス先輩ですが、2年sには当然の如く主張&牽制してればいいと思います。(遺言)
081106