それはいつかの夢でした。
けれど僕は、自らその夢への道を壊してしまったのです。




甲子園への道が始まった。
ベンチ入りを許されなかった自分は、スタンドで声を張り上げて応援する日々が続く。背番号のないユニフォームに袖を通して見つめる先には、あの人がいる。

寮に戻り、決して土色にまみれることのないそれを脱ぐ。手にしたのはバッド。
悔しさと憧れと野望の比率は1:4:5。見事なダブルプレーだ。
グラウンドへ向かう道、突然引きずり込まれたのは人気のない、倉庫と倉庫の間。微かな外灯に照らされた髪の色には見覚えあった。
見覚えがある、なんてレベルの話じゃない。
今まで、1年とちょっと毎日のように見ている、今年に入ってからはとてもよく似た色を同じ部屋で見ている。
思わず叫びそうになったのを一呼吸おいて、ゆっくりと息を吐く。
「バカ」
その唐突なたった二音節の言葉に含まれた、沢山の意味をわかっていた。
「すみません…」
頭ひとつ分ほど低い、小ぶりな頭に向かって謝る。目の前の頭は俯いているせいでつむじまで見える。
「謝ってすむ問題なんかじゃない」
あおのくその仕草に見とれながらもう一度謝った。
この夏が最後の機会だった。彼とともにプレーするためには。
そのチャンスを生かせなかったのは、他でもなく自分だった。
「バカ」
その言葉に俺は今更のように思い知らされるのだ。自分が熱望していたことは、彼も望んでいたことなのだと。
突然掴まれたTシャツと、唇にあたった柔らかな感触、そしてその後に感じた痛み。離れていく身体がカクンと低くなったのは彼が背伸びをしていたという証だ。
「バカ。スタンドからよく見てなよ。いーい?哲なんか見なくていいからね。俺だけ見てな」
同じポジションの先輩からはきっと多くも学べるのだとはわかっていても。
「はい」
逆らうことなどできなかった。
彼は俺の返事に満足したように笑うともう一度背伸びをした。血の味がしているはずの部分を、そっと舌が撫でる。

去っていく後姿に今はあるはずのない背番号を見た気がして、彼をとても遠くに感じた。
たった2,3メートル。けれどグラウンドとスタンドのように。




それはいつかの夢でした。
そして僕は夢の代わりに口付けを得てしまったのです。





END .







ゾノ氏、結構好きです。
最初と最後が「僕」なのは語呂のよさをとったからです。。。
しかし需要がどこにもないのを書いて…ほんと自己満足だな(笑)
ふるはらーなので(しつこいな)、ゾノ春は書けないんですけども(読むのは平気)
だからと言ってゾノ亮とか、何。先に書くものあるでしょうが・・・。




081001