おそらく皆様がタイトルから予想された内容とは180度異なっていると思われます。
原作の、2人の可愛いキャラは面影ほども残っておりません。
平たく言ってしまえば、大っっっっ変暗い話でございます。
それでもよろしければスクロールをどうぞ。


























































いきなり来た君に俺は驚かなかった。だって知ってたから。
知ってた?違う。わかってた。
驚かなかった俺に君も驚かなくて、2人で抱きしめあった。
それは多分、最初から決めてあった約束事にとても似ていたから。約束そのものだったから。
身を寄せ合って、抱きしめあって夜を越えたね。ひとりでは越えられなかった夜を2人で。
2人とも涙が止まらなくて、枕をビショビショにして。
次の日の朝、真っ赤になった目元にお互いを笑ったんだ。
いつも目元を隠している俺をズルいと君は拗ねて。
2人とも凍えそうな冷たい水で何度も何度も顔を洗ったんだ。

決して大柄ではない自分よりもっと小柄な身体の持ち主と寄り添って、身体を温めあいながら眠った。
部屋には戻れなかった。帰りたくなかった。
その理由を本当の意味で正しく理解してくれるたった一人の人。
冬の朝の蛇口から出てくる水はとても冷たく、指が千切れそうになる。
冷たいよりも痛いと感じるその感覚に、俺はまだ自分に感情が残っていたことを思い出した。
喪ったものは大きかったのか小さかったのか、自分ではよくわからない。
確かに心に穴は空いたけれど、すぐ埋まりそうにも見えた。
だって、何の痛みも感じなかったから。
穴の空いた心は温かった。
だって、隣で一緒に指を冷やしてる存在があるから。
痛いのは、冬の冷たい水に晒され続けた両の手の指だけ。

これからのことは、考える必要なんてなかった。
だって何も変わらない。変えられない。
自分の力で何かが変わるなら、最初からやってる。
自分たちの努力次第で世界は容易く変えられるんだと知ってるんだよ、俺達は。
そして知った。
何をしてもどれだけのことを成そうとも決して変わらない世界があるということを。
ふと思う。彼らは変えられない世界があるということを知っているのかと。
そして思い直す。知っているに決まっていると。
自分が知っていて彼が知らないことなどなかったから。
そしてそんな彼が選んだ人ならあの人も知っているんだろう。

痛いくらいに冷えた指先をそっと目の前の首筋にあてる。
驚いて飛び上がった姿が面白くて、声をあげて笑った。
仕返しとばかりに首筋にあてられた指先は俺のと同じくらい冷たくて。
ビックリして固まった姿をやっぱり笑われた。
そして繰り返すうちに冷たかったはずの指は手はいつも通りの体温に戻りつつあった。
温かくなったね。うん。
指が?手が?心が?
全部だったのかもしれない、全部じゃないのかもしれない。だけどそんなことはどうでもよかった。
大事なのは冷えた指を温めてくれる人が、温めようとしてくれる人がいることだ。
くしゃみが出た。

帰ろうと言い、帰ろうと返ってきた。
大げさに言えば半分も開かなかった、腫れた目は大分スッキリとしていた。きっと自分もだ。
こっそりと出てきた部屋の2段ベッドの下段はまだ、自分たちの体温を残してくれているはずだ。
たとえ冷たくなっていたとしてももう一度温めなおせばいい。この、繋がった手のように。
2人でもう一度暖かな世界に戻れるくらいには、時間は俺達に優しかった。
これからどうしようか。
独り言のような問いかけに彼は笑った。それはいつもの笑顔だった。
野球しよう。
そうだねと笑った俺の笑顔もきっといつもの笑顔だ。世界はやっぱり、なんにも変わっていない。

ああ、今日は何と幸せな日なんだろう。
俺の大切な人に、大切な人ができた日で。
誰かに頼ることを、身を預けることを良しとしない兄が彼には、君の同室の先輩には素直でいて。
そこには他の誰一人として入り込めない世界があった。絆があった。恋があった。
誰かが気付いたのを皮切りに、誰もが彼らを祝福して。
照れながらも幸せそうに笑う彼らを俺達も、いや俺達が誰よりも笑顔で受け入れた。
あぁ、今日はなんと幸せな日なんだろう。
誰からも後ろ指を指されるこの感情を俺が捨てなければならなくなった日で。
それはきっと俺が「マトモ」に戻れるということで。
そして恋を喪った哀しみを一人で受け止めなくても良いと知った日だった。



今日はとても幸せな日だ。
彼にとって、あの人にとって。俺にとって、君にとって。
今日はとても幸せな日だ。
今日はとても幸せな日だ。





END .







暗ぁー…暗すぎ…
わかりにくいかと思いますが、沢→倉亮←春の沢&春です。
よそ様のサイトの倉亮の幸せっぷりにあてられたらしい…(それでどうしてこんなのに…)



071027