夏に向けて、これから大事な時期を迎えるという矢先。
梅雨前線のお陰で不安定な気候が続いたせいか、降谷が風邪を引いた。
本人が「北海道には梅雨なんてなかったから」としれっと言い放った中、顔面蒼白という言葉がピッタリなほどに青ざめうろたえて、キャプテンである結城に降谷の体調管理の悪さを謝ったのは同室の先輩たちだった。
ルーキーとはいえ、1軍で即戦力になりえる力を有していながら、野球以外のことに全く無頓着な奴だと気付いていながら注意するのを忘れていた、と。
もちろん彼らを咎める人間は誰もいなかった。―――たった一人を除いて。
その彼らを咎めた唯一の人間、小湊亮介、でさえ後輩の体調管理を怠ったことではなく、体調管理ぐらい自分でさせろと、甘やかすなと別の意味で警告したのだが。
幸いにも熱はそれほど高くなることはなく、降谷は1日練習を休んだだけで回復した。
明朝、病み上がりの彼を待ち受けていたのは。
「スタミナねーから風邪なんかひくんだよvv」と笑う正捕手と。
「夏風邪は誰がひくか知ってる?」とこちらもニッコリと笑う二塁手だった。
その夜、食堂には風呂上りのアイスを食べる1年3人組の姿があった。
風呂に入る前に疲れた身体を引きずって買いに行ったアイスは、風呂上りの火照った体には更に冷たくおいしかった。
が。
春市にはさっきから気になっていることがあった。
「降谷くん、ちゃんと髪乾かさないとまた風邪ひくよ?」
病み上がりだというのに降谷の髪の乾かし方はぞんざいで、毛先から首にかかっているタオルへと滴さえ落ちている。
「あー、降谷、お前髪の毛ちゃんと拭かないで風呂出てきたろ?」
「降谷君、人の話聞いてる?」
「すぐ乾くから大丈夫だよ」
食べ終わったアイスの容器を無造作に机に置く様子では、本当にそう思っているらしい。
まったく!
突然椅子から立ち上がり向かい合っていた降谷君の後ろにまわった俺を、思わず腰を浮かせて目で追った降谷君に。
「大人しくして!」
普段は絶対に見下ろすことの無い頭に、首にかかっていたタオルをかぶせる。
どうしてこんなにも自分の身体に無頓着なのか。
幾分乱暴に手を動かした。
「あ、俺も俺も!」
タオル越しに感じる手が、2つ増えた。
閉じていた目を開いて視線だけを左に向ければ、空になったアイスの容器だけが置いてある。
じーちゃん仕込みのテクを見せてやる!
おじいさんが髪の毛乾かしてくれたんだ?
うん。だけど最近じーちゃん髪の毛薄くなってさ、拭くとこないんだよ。
頭の上から聞こえてくる会話に、2人の様子が気になって顔を上げると4つの手が頭を掴んで前を向かせる。
「「ちゃんと前向けって(向いてってば)」」
仕方がないから、楽しそうな会話だけを聞いていた。
気持ちよさに目を閉じながら時々振られる会話に答えたりして、そうしている時間はあっと言う間に過ぎて。
頭を覆っていたタオルの感触が離れていく。髪の毛はまだ少し湿っていた。
「タオルだともうこれ以上乾かないな」
「もうコレ、びしょびしょだしね。ドライヤーはここにないし」
「僕の部屋にあるよ、先輩のだけど」
その言葉に、春市と沢村は顔を見合わせて笑って。
「行こうか」
アイスの容器を片付けて、食堂から降谷の部屋へと。
理由なんか分からないままに上機嫌で。
同室の先輩はきっと快く貸してくれるだろう。
髪の毛を乾かし終わったら、何を話そうか。
話すことがないんじゃなくて、話したいことばかりで迷ってしまう。
それから。
時折、降谷の髪の毛を乾かす春市と沢村の姿が先輩たちの目に留まり。
正捕手は「トリマーか?」とニヤニヤした笑いを浮かべ。
二塁手は「俺もよろしく」とニッコリと笑ったという。
END .
オチは御幸と亮介か!
「夏の飛沫」なんて仮タイトルをつけていたんですが、そんなさわやかなものじゃありませんでした。反省。
しかし私は降谷を何だと思っているのか・・・!!
生活能力皆無です。っていうか5歳児にも劣ってます、よね…?これじゃ…
髪の毛を乾かすという行為は、目を閉じてなされるがままってことなんで相手を信頼してないとできないよなぁと思ったので。
人なれしてない野生動物をちょっとずつちょっとずつ手なずけていく感じで(笑)
しかしコレじゃ「降谷暁育成計画」byエ●ァ、か…?
視点がコロコロ入れ替わって読みにくかろうと思われます。すみません。
そしておそらくこの後は小湊兄弟で髪の乾かしあいっこをするんだと思われます。
沢村は増子先輩に乾かしてもらえばいいと思います。クリス先輩相手には恐れ多くてできないらしいので(笑)たまには倉持が乾かしてくれますが、悪戯されるので自分からは頼みません。
むしろそっちを書けという話ですか?丹波さんが可哀想なので書きません(笑)
そして明らかに本編とずれている、設定から無理のある話ですみません。
080114