夏の熱気が完全に消え去って久しい晩秋、青道高校の2年生は修学旅行へと旅立った。もちろんその中には野球部の人間も含まれており、3泊4日の旅路を一般の生徒と共に。野球部以外の生徒より少しだけ荷物が多いのはバッグの中にグローブとボールが入っているからだ。さすがにバッドは入らないので諦めたが。
「俺がいなくても淋しーって泣くなよ?ヒャハハvv」
出発前、倉持は沢村の頭をぐしゃりと撫でた。…掴んだ、と言ったほうが正しいくらいの撫で方で。
「誰が泣くかっつーの!」
「タメ口禁止!」
外だから制服が汚れのを嫌がったのだろう、倉持はヘッドロックの体勢に入る。
助けを求める沢村の手は視界に入らないのか、毎度毎度飽きないな…と増子は静観していた。
それでも仲がいいから不思議だな、とついには無視できなくなった2人の後輩を止めながら苦笑する。
寮の門までとはいえ、見送りに出ているのはうちの部屋くらいだしな。
それもこれも「お見送りいたしやす」となぜか胸を張った沢村の発言が発端なのだが。
「来んな、うぜぇ」と言い捨てたはずの倉持も、結局なんだかんだと見送られて(?)いる。こそばゆそうにしながらも、少しは嬉しかったのかもしれない。
「・・・暴君は去った」
部屋に戻る途中、沢村ちゃんがボソっと呟いた。
「沢村ちゃん?」
・・・まさか、そのために?
「増子先輩!修学旅行っていいですね!」
・・・すまん、倉持。
「そうだな」
部屋は広いほうがいい。と、思う。
1日目、沢村ちゃんは普段の圧制から解き放たれたかのように生き生きとしているように見えた。嬉々としてゲーム画面に向かい、普段と違って邪魔されることのない部屋での時間を楽しんでいた。
それはもう、存分に。
ただ、その行動も2日目の夜を迎えた頃には空元気であることは一目瞭然だった。伊達に半年以上同室で過ごしてるわけじゃない。
あまり読む気がなさそうに雑誌を広げている沢村ちゃんに、そっと声をかける。
「食べるか?」
淋しさがせめて紛らわせればと差し出したプリン。捲っていたページを離して、上を向いた手のひらにそっとプリンとスプーンを置く。
すぐにでもフタをめくって食べだすかと思いきや、沢村ちゃんはただじーっと見つめていた。
「やめときます。」
ありがとございやしたっと、勢いよく下げた頭に合わせて、はねた髪が揺れた。
「無理しなくてもいいんだぞ?怒らないし。」
以前怒って関節技をかけたのが悪かっただろうか。殊勝に遠慮するなどとはほど遠い性格の後輩を見やる。
「えーっとですね…」
照れたように頬を掻く。
「いつもこの部屋でプリン食う時って、3人じゃないですか。あっと、最初は、その、…違いますけど。」
慌てて訂正するのは、やっぱり最初の関節技が効いているらしい。もう気にしていないのに。今でも時々口にする倉持だって、ただ単にからかっているだけだ。彼の場合は最初から、だが。
確かに、まぁそうだった。
各々、手に持つものがプリンであったり、アイスであったり、はたまたゲームのコントローラーだったりするけれど。
必ず、この部屋に3人揃っていたのだ。(たまに4人以上に増えていることもあるが)
「だから今度も、やっぱり3人がいいなぁって。」
それはささやかなワガママ。
けれど叶えてやりたいと思わせるには十分な。
「そうだな、帰ってきてから3人で食べよう。」
「はいっ」
翌日。
帰ってきた倉持は制服を脱ぐ暇も土産を渡す時間も与えられず、なぜか帰ってきて早々に同室の人間とプリンを食べることになったらしい。
事態が飲み込めず混乱を抱えた倉持と裏腹に、彼の先輩と後輩は満面の笑みを浮かべていたという。
後日増子から、帰ってきて早々のプリンに至るまでの成り行きを聞いた倉持は、後輩の言動に苦笑を浮かべるしかなかった。
それを教えてくれた先輩には、照れ隠しだとバレていたとしても。
END .
あー、書き直したい…。色々と雑すぎる・・・
そういえば5号室兄弟を書いてないな、と思ったので。
のんびりできることよりも、いるはずの人間がいない事のほうが気になって仕方ない、と。
しかし仲良すぎですよね、この3人。原作で(笑)
071004