「丹波さん。あの…っ」
「何だ?」
「俺、実は前から丹波さんに言いたいことがあって…!」
バッテリー組だけの別メニューの最中。
沢村は3年生エースに声をかけた。
「?何だ…?」
「俺と一緒に…」
「一緒に?」
まさかデートか!?と御幸の口から白いものが出かけた時。

「俺と一緒にア○ランスに行きましょう!!俺、今ならまだ間に合うと思うんです!!」
「………」
「あ、アデ○ンスじゃ嫌ですか?だったらリー○21でも…!」
わなわなと震える丹波には気付いてないらしい。
「ねぇ、普通先に電話するんじゃないの?」
的外れの忠告はさすが「天然」の名に相応しい。

「バカヤローーーー!!!」

彼らしからぬ声量の罵声に、監督と話し合っていたクリスが戻ってきた。
「どうした?」
先ほどから腹を抱えていた御幸が、笑いを堪えながら事の顛末を告げる。
「沢村」
「はっ、はい!」
深い溜め息と共に搾り出された名前に思わず気を付けをし。
なんかよくわかんないけど怒られる〜っ!と身を硬くしていると、頭にポンッと手が置かれた。
「そういうことは後でこっそり言ってやれ。本人が傷つくだろう?」
「クリス!?」
お前まで言うか!と詰め寄る丹波との間に、クリスは沢村の両肩をつかみクルリと反転させて割り込ませた。
「可愛い後輩がこう言ってるんだ、素直に聞いてやったらどうだ?」
なんだかんだ言って後輩には優しい丹波。
じっと見上げてくる沢村の視線に、怒るに怒れずにいた。


「でも御幸先輩も危ないんじゃないですか?ずっと被ってるし」
再び横から割り込んできた声は、やはり「天然」の名に相応しい。
当然、全員の視線は御幸の頭部、というか帽子に注がれる。
「まぁ、蒸れると良くないとはよく聞くな」
自分のことから話題がそれた丹波はどこか楽しそうだ。
「へ?俺っすか?」
「0120…なんだっけ?」
「9696だよ」
ルーキーの2人は既にフリーダイヤルの番号について話し合っている。
「ちょ…、俺は大丈夫ですって!フサフサだしっ!」
「2323て何だっけ?」
「カツラじゃなかったっけ?」
「カツラ…まさか、御幸…」
「地毛だバカっ!」
ヘッドロックをかけられた沢村がギャーギャー騒ぐ。
クリスのとりなしでようやく開放された沢村は、まだ懲りないのか更なる標的を持ち出した。
「でもクリス先輩もヤバかったりして…。毎日セットしてるし…」
せっかく助け舟を出してくれたクリスにまで疑惑の眼差しを向けるとは、無謀なのか学習能力がないのか、あるいは両方か。いや、両方だろう。
クリスの厳しい視線にもめげない度胸はもうすこし他のところに有効活用しろというのが、誰も口には出さないがこの場の共通の見解だった。
「確かに整髪料の使いすぎは良くないって言うしな」
「オフでも上げてますよね、クリス先輩」
自分達の頭部から感心が逸れて嬉しい丹波と御幸が口々に好き放題喋る。
すると、今まで一度も口を開かなかった宮内がボソッと呟いた。

「それを言ったら1番危ないのは監督だろう」

瞬間、思わずチーム全体が練習を中断するほどの大爆笑がグラウンドの片隅で起こった。
その後、全体集合がかかった時に、何故かピッチャーとキャッチャー達だけが笑いを堪えていたそうな。







END.



クリス先輩の頭部にまで危機を及ぼしてすみません…