いつもよりすこしだけ涼しい初夏の夜。
それは微かに、本当に微かに異彩を放っていた。
「コレ、誰かからもらったのか?」
背中合わせに、自分はスコアを沢村は雑誌を観ていた時。
肩越しに見えた、目の高さまで上げられたタオル。
確かにそれは自分の趣味とはちょっと違っているけれど、そんなに外れてもいない。
その証拠に今まで誰一人として、訊いてきたことはなかった。
「あぁ、もらいもん」
「誰から?」
適当に返して置けばよかったものを、少しでも躊躇ったのが運のツキ。
振り返った沢村は追求を止めない。
「…言えない人から?」
鈍いようでいて(いや、実際かなり鈍いのだが)この後輩はなかなか侮れない。
ジッ、と見つめてくる眦の上がった目に負けたように、御幸は両手を顔の高さまで上げて降参の意を示した。
「そんなに睨むなよ」
「睨んでない」
「それが睨んでない顔かっつーんだ。確かにそれは元カノからもらったもんだよ」
白状した途端、沢村は興味が失せたようだ。
ふーん、と相槌を打つとそれっきり目も向けなくなってしまった。
「気になんねぇの?」
「何が?」
「元カノ」
「なんねぇ」
「えーー、何で?」
「気にしてもしょうがねぇし。それに…」
「それに?」
「アンタが自分で『元』っつってんならわざわざ話し持ち出す必要ねぇし」
1球でも降谷との投球練習が多いとすぐ拗ねるくせに。
いやいやなかなかどうして男前。
「惚れ直しそう…」
思わず呟いた言葉に何を勘違いしたのか、あっという間に俺の視界は90度回転。
天井の染みを数えてる間に終わる?
そんなの御免だね。
性急にTシャツを脱がせようとする頭上の男を押し止めて、自分から唇に噛みついた。
嫉妬も時にはプラスに働くのだと、俺にのしかかっているいい男予備軍に教えてやるのは当分先にしておこう。
その理由?
そんなの決まってる、俺が楽しいからだよ。
笑おうとした俺の唇は、沢村の唇によってその行為を阻まれた。
END,
受けても攻めても御幸はキモい…(笑)