正直に言うと。
入学式で同じ学年にあの「御幸一也」の姿を見た時、俺の野球はここで終わると思った。
中学野球界でも一、二を争う有名人、いや天才が同じチーム、しかも同じ学年にいるってことは、
俺が一軍でマスクをかぶることがないってこととほぼ同じことだ。

練習に打ち込みながら、でもどこか心は冷静に終わりへ向かっていたかもしれない。

それを引き止めてくれたのが、クリス先輩だった。






俺たちが入学してからの初めての夏、・・・その直前、クリス先輩が怪我をした。
代わりにマスクをかぶったのは、御幸だった。
クリス先輩の怪我を案じる一方で、御幸がこのまま3年間マスクをかぶり続けるんだろうと思い。
そして恥ずべきことに、御幸がもし・・・、とも考えた。
クリス先輩がプレーヤーとして2軍に参加してきたのは、それからしばらくたってからだった。

「小野」

そう呼ばれるのを楽しみにしていた。
その声の次には、惜しむことのない助言をくれたから。
クリス先輩には悪いけれど、手が届かないと思っていた人から日常的にアドバイスをもらえるのは、俺にとってはうれしくて仕方がなかった。
いつしか俺の中に芽生えたのは。
「1軍でマスクを」という、普通の人間なら当たり前の、けれど俺はかつて一度捨て去った、熱い願望だった。


2年になり、入学してきた後輩の中にソイツはいた。
いろいろな馬鹿をやらかしていた沢村はいつの間にか2軍に入り、そしてクリス先輩とバッテリーを組んだ。
2人の間に何があったのか俺は知らない。
ただ、時折クリス先輩が漏らすため息を聞いて、相当な問題児なのだとは思っていた。
練習試合でバッテリーを組んだとき、案の定・・・と思った。
降板させられた沢村に声をかけたのは、クリス先輩ひとりだけ。
その姿を見て、この2人はちゃんと「バッテリー」なんだと思った。

2回目の練習試合は、いきなり無死満塁。
ストライクの入らない沢村と、うまくリードできない俺ではなす術がなかった。



「キャッチャー 滝川!!」



そのコールを、どれだけ待ち望んでいただろう。
ベンチから出てきたのは、ほぼ1年ぶりに見る姿だった。
「よく点を取られなかったな、お前のおかげだ」
・・・その言葉がどれだけ嬉しいものかは、きっと俺しかわからない。


「すげぇぞあのキャッチャー!」
先輩の姿を見に、こんなにも大勢の人が集まる。
自分が交代させられて、1軍への道を閉ざされかけたというのに、そんなことどうでもよくなるくらいに高揚する。
先輩のプレーを見ることができる。
それが純粋に嬉しい。
先輩へのほめ言葉を聴いて、自分まで誇らしくなる。

気がつけば、視界が歪んでいた。



沢村。

あの人をグラウンドへ連れ戻してくれてありがとう。




そして何より、クリス先輩。

また、先輩のその姿を見せてくれて、ありがとうございます。





ちょっと馬鹿だけど愛すべき後輩と、

尊敬してやまない先輩に。




心からの、ありがとうを。
そしてエールを。

それから。
自分にあそこへ立つための努力と覚悟を。







END.



途中からいい加減でごめんなさい。筋あわせな部分がたっぷりかつモロわかり…orz
本誌の「勉強させてもらいます」+に加えて、1コ上にクリス先輩、タメに御幸。
そんな環境で何を思っていたんだろうと思ったのがもそもその始まり。
がんばれ、小野くん。応援してるよ。(結構マジ