月姫異聞
つきひめいもん
いまは昔、竹取の翁といふもの有けり。
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。
名をば、さかきのみやつことなむいひける。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。
それを見れば、三寸ばかりなる人いとうつくしうてゐたり。
それは昔。 二親を早くに亡くした透と洋一の兄弟は、親が残してくれた小さな畑を耕し、家の裏手の竹林から竹を取ってきては細工物を作り、犬の金丸とともに暮らしておりました。 そんなある日、細工に使う竹を採りに透が裏山へ登ってきたときのこと。 遠目にも明らかに自ら光を発する竹が1本、透の目に飛び込んできました。 怪談が大嫌いな透は一目散に逃げ出そうとしましたが、なぜか足はその光る竹に向かって歩いていきます。 どう足掻いてもその竹の元へ向かうことがわかった透は覚悟を決め、その竹の元へ走り出しました。 そして両手に持った鉈を斜め上から勢いよく振り下ろしました。 怖いなら恐怖の元を断ってしまえばいい。 なんとも豪快な考え方です。 力自慢の透にかかれば細い竹など一刀で折れてしまいます。 何が光っていたのだろうと恐る恐る断面を覗き込むと、何とそこには小さな小さな人の姿。 眠っていたのか、閉じていた大きな目を開けると透に向かって笑いかけました。 子供が大好きな透は両手で包めてしまいそうに小さいその赤子をそっと抱き上げました。 すると、その赤子はするすると大きくなり、両腕で抱えなければならないほどの大きさになりました。 上等そうな白い産着に包まれて幸せそうに笑うその赤子に、透はニッコリと笑いかけました。 「栄純。お前の名前は今日から栄純だ。いい名前だろう?」 まるで、その言葉の意味が理解できたかのように。 その赤子――栄純は、笑いました。 *** 「ただいま洋一」 「なんでそんな穀潰し拾ってきたんだよ〜〜〜!!!」 帰ってきた透を見て、「おかえりなさい」の前に洋一は叫びました。 無理もありません、2人だけでも生活は苦しいのです。 半年ほど前、まだ小さな子犬だった金丸を拾ってきた時と同じ問答を二人は繰り返しています。 あの時は結局、捨てられても捨てられても家に戻ってきてしまう金丸と、大きな図体を丸めていじけている透に洋一が折れた結果となりました。 しかし2度も同じことをさせるわけにはいかない!と洋一は心に決めていたのです。 その上今度は人の子、しかもまだ生まれて間もないような。 自分で餌を探せる犬の金丸と違って、一から十まで世話をしなければならないのです。 子供の大好きな透と違って、洋一は子供が苦手でした。 ましてやこんな小さな赤ん坊、ちょっと乱暴に扱ったら折れてしまいそうで怖かったのです。 「どっか貰ってくれる家探して来い!!」 透に抱えられている栄純を潰しそうな勢いで洋一は透に掴みかかります。 「ま、まてっ洋一!!」 その時。 「おーち」 透のものでも洋一のものでもない声がその場に響きました。 慌てて視線を下ろすと、小さな手で裾を握って笑う栄純が。 「よーち」 「・・・・・・初めて喋った」 「・・・」 「よーぃち」 「・・・」 「子供用に服を仕立て直さないとな」 「よーいち」 「・・・ウチに子供1人育てる余裕なんかないって兄貴もわかってんだろ」 最後の、しかし最も現実的で困難な反抗が。 「う・・・まぁ、それはそうだが・・・」 「あにぃー」 俺のことか?と透が相好を崩したとき。 ゴトっ いつの間にか透の足元に来ていた金丸が口に咥えていた何かを地面に落とした。 「金丸、お前また何か拾ってきたのか?」 近所では猫よりねずみとりが上手いと評判の、わん、と吠えた金丸の足元でキラキラと輝くのは。 越○屋さんの必須アイテム、山吹色のお菓子。もとい、10枚はありそうな小判。 2人は言葉を失ってしまいました。 「・・・・・・余裕なら、今できたな」 こくん、とうっかり頷いてしまったのが洋一の運のつき、いえ、優しさ。 こうして竹から出てきた不思議な赤ん坊、栄純は晴れて家族の一員となりました。 |
続くかもしれない