ドクン、と。
心臓の音が聞こえた。
御幸がクリス先輩を好きなのは知ってた。
っていっても先輩としてだけど。
だけど。
だけど。
どうして倉持先輩が―――?
今まで一言も、倉持先輩からクリス先輩のことなんて聞いたことなかったのに。
「……壊してよ」
聞いたことのない声で、聞いたことのない事をねだるその姿に。
早くここから動かなくちゃと思うのに。
動かない。
動かない。
無理に動かせば崩れ落ちてしまいそうになるこの足が恨めしかった。
しゃがみこんで、小さくなって。
耳を塞いで、全ての音を消して。
ドクン、と音を立てる心臓と。
小刻みに震える口の。
微かな音を今の全てにしたくて、でも聞こえて欲しくなくて。
どうしてここから動けないのか、その理由は後になってから知るのだけど。
壁1枚隔てた場所から聞こえる甘やかな音と声に、
押さえつけられたようで、縛り付けられたようで。
今は、ただ。
世界を閉ざしたかった。