今日、アンタが歩いているのを見た。
嬉しそうに、女の子と。
カンチガイなら、よかった。
「おい、沢村。ダビスタやんぞ。」
負けたら一週間パシリな。
人が寝てるのを足蹴にして起こすほど重要ですか、それは。
「増子先輩とふたりでやってください」
布団の中から返事したから、声はくぐもっているだろう。
・・・本当はそれだけじゃないんだけど。
チッと舌打ちした倉持先輩は、別の部屋へ行ったらしい。
結局、ゲームができればそれでいいようだ。
じゃあ変な罰ゲームつけるなよな。
「・・・沢村ちゃん、大丈夫か?」
恐る恐るかけられた声は増子先輩のもの。
・・・きっと気付いたんだ。
「大丈夫です・・・。」
「・・・その、何があったんだ・・・?」
顔を上げた自分を見て、増子先輩は更に気遣うような顔をした。
・・・俺は、泣いていたから。
優しい問いかけにも、ただ首を振った。
せめて元気を出せよと、頭を撫で出くれる手と優しい声に深く深く頷いた。
最後に一筋流れた涙は、ここにいるはずの。
でも今は他の部屋でゲームをしてるはずの人のためのもの。
今日、アンタがキスしてるのを見た。
勘違いだと言い聞かせる、この感情ごと全部。
カンチガイだったらよかったのに。
END.
熱烈な倉沢ブームだったときにかいたもの。
それでこれかとは言わないでくれ。
070111