秋からもうすぐ冬になろうというこの季節。
御幸が所属する球団は「ファン感謝デー」という催しを開いた。
リーグの新人王という実績に加えて甘いルックスで、プロを目指す少年からも女性からも大人気の御幸には常に人だかりができて、フラッシュの光らない時はなかった。

予定は順調に進み、次のコーナーはファンがマウンドに上がるというものだった。無作為に指名されたファンが次々とマウンドに上がってボールを投げていく。

「じゃあ、次はそこの男の子!!」
他の選手に混じって見ていた御幸は、現れた少年を見て驚いた。
「沢村!?」
どうして、彼がここに。
共にプレーしていた頃と変わらぬ姿でマウンドに上がった彼のボールを、先輩のキャッチャーは捕逸した。そのボールは記憶にあるものよりも、更に暴れていた。
3球投げ終わった彼は、そのまま出口へと向かっていく。
御幸は我を忘れて沢村の後を追った。
出口の近くでようやくその姿を見つけたのだが。
彼は1人ではなかった。

「あ!待って下さいよ〜」
「悪目立ちするなと言っておいたはずだが」
「だって昨日先輩キャッチに付き合ってくれなかったから…。」
「昨日は用事があると随分前から言っておいたはずだろう」
「そうですけど…でも…」
「明日は付き合ってやるから我慢しろ」
「はいっ!」

プロを志望した降谷とは異なり、沢村はプロへも進学へも首を横に振ったという。
高校の野球部の副部長である高島に聞けば、卒業を待たずにクリス先輩を追って渡米したらしい。
僅か数ヶ月のバッテリーだったはずの2人の道は今も、隣に寄り添って続いているのだ。
プロより更に不安定な道を覚悟してまで、クリスを選んだのかと思うと。


「妬けるな……」




2年後、3Aとはいえ、僅か22歳と20歳の日本人バッテリーが登場するのは、また別の話。







END.


野球のことを知らないのなら何でも捏造しちゃえばいいじゃない。 という暴挙に出た一作。最低、この人。
この夏の騒ぎを思えば、どうして沢村の顔を誰一人知らないのか、というツッコミはスルーさせていただきたい。

070111