「御幸っ!ゴメン、遅れた!」
2人が待ち合わせた自販機横のベンチ。
沢村が息を切らせて駆け寄ってきて、深々と頭を下げて謝った相手は。
「ぐ〜〜。」
夢の中の人となっていた。
毎日毎日ハードな一軍の練習をこなして、更にその後、自手練してて、天才と呼ばれてても、タフそうに見えても大変なのはわかる。
・・・一応は。
「御幸〜・・・」
だけど、だけど。
「野球部」の俺は納得できても「野球部じゃない」の俺は納得できない。
だって、だって。
話したいことが、沢山あるんだ。
1日24時間のうち、学生生活と野球を差し引けば時間は殆ど残らない。
この時間はその中で僅かに残った貴重な時間だった。
「しょうがない、帰るか・・・」
けれど、肩の冷えるこんなところにおいて帰っていいものか・・・と覗き込んだ寝顔は思わずドキッとするほど綺麗に整っていて、顔が赤くなるのがわかる。
どうにもこうにも厄介な相手だ。
とりあえず隣に腰を下ろせば、無意識なのか頭を預けてくる。
誰にでもやってんのかなぁ・・・ と、思うとちょっと苦しかった。
「・・・ えぃ、じゅ・・・ん ・・・」
「ん?起きたのか?」
呼ばれたことに反応すれば、相手はまだ夢の中。
・・・ということは。
「どんな夢見てんだよ・・・?」
俺が出てくる夢、なんて。
きっと野球の夢でも見てるんだろうな。
俺達の共通点なんて、野球しかない。
投げ出された手をとって、少しだけ指を絡めた。
「野球の夢じゃなかったら、いいな・・・。」
その言葉が夢の中まで聞こえたのかどうかはわからないけれど、御幸が微かに笑った気がした。
近づきたいんだ、誰よりも。
だからお願い。
夢の中でも、貴方に逢わせて。
おまけ。
「早く起きろよ〜・・・。」
右肩に乗った頭を、妙に意識してしまうのが嫌で、沢村は鼻歌を歌いだした。
といっても、野球一色の生活を送っている最近の歌は知らない。
少し前の、それも歌詞が少しおぼろげな曲だ。
「ん・・・?」
絡んだ指に少し力が入ってるような・・・?と沢村が気付いた時、首筋に生暖かい感触があった。
「ギャーーー!!何してんだよ!!?」
起きたんなら言えよっ! と真っ赤になって怒鳴る沢村に、御幸は笑った。
「歌ってた振動で起きたんだよ。たった今、な。」
そうやって笑われると、その笑顔にばかり目がいってしまって、いつもドキドキする。
「かわいーことしてくれるな?」
持ち上げたのは、指の絡んだ手。
その後、御幸が妙に上機嫌だったのは言うまでもないこと。
END.
某所へお嫁にいった御沢の対バージョン。
070111