春は出会いと別れの季節といったのは誰だったか。
ここ、青道にも別れの日が訪れていた。


「クリス先輩っ、卒業おめでとうございます!!」
「・・・倉持か。選抜頑張れよ。」
「もちろんっすよvv」


「だーーーーっ!!離せっ!この変態っ!!」
「はっはっは!変態だなんてお兄さん傷ついちゃうな〜vv」

御幸に後ろから羽交い絞めされて、クリスの前に連れて来られたのは沢村。
引退のその日まで、クリスとバッテリーを組んでいた投手だ。

「コイツ、先輩が卒業する日だってのに寝坊したんですよ〜。」
「あ、バラすなって言っただろ!!」

ようやく拘束の外れた腕を振り上げた瞬間、その腕はやんわりと掴まれた。

「・・・こんなのが高校野球最後のパートナーだと思うと」

呆れたような声音に、しゅん・・・、となった沢村の頭にクリスの大きな手が乗せられた。

「・・・それも、悪くないな。」

寝坊したのは、昨日よく眠れなかったからだ。
その原因はというと、今目の前で自分の頭を撫でている。
この人がいなくなるということを、全身で拒絶していたのだ。

「俺は・・・!先輩がっ・・・っく、最初でよかったですっ・・・!!」

泣きついた左肩。
当然のように受け止めてくれるこの温かさが、明日からはもうなくなってしまうだなんて。

そんなの耐えられるはずがなかった。



きっと明日には声が枯れるくらいの勢いで泣いて、先輩との別れを惜しむ後輩と。
その後輩を優しく包み込む先輩。
卒業式に相応しい光景だ。

「あ〜あ〜。あんなに泣いちゃって、午後からの練習大丈夫かしら、ウチの旦那サマ。」
「大変だぞ〜、あの人を超えるのは。」

茶化すように笑った御幸の真意を、倉持はいとも簡単に探り当てた。

「望むところだっての。」
「でもな〜。ハジメテの人は特別だって言うし〜?ま、せいぜい頑張れよな、ヒャハvv」


桜吹雪の向こう、さっきまで泣いていた後輩は、尊敬する先輩の腕の中で笑っていた。


「ハジメテは俺だっての・・・。」







END .


私としては、卒業式のシーズンにサクラが咲いていることがありえないのですが・・・。
所有権を主張したがる男達。


070111